楽屋に戻る。
スピーカーからあこさんの歌声が聞こえてくる。
『こんなに聞こえてたんだ』
着替える。
前座さんが微妙な距離で「刺激になった」などと話をしている。
ふいに鶴瓶師匠が
「紺屋良かったで」と。
「いや、イビキ聞こえて来ましたよ」
「そんなんは気にせんでええねん」
「そうですか」
「久蔵がええな。花魁はもっと勉強した方がええ」
「あ、ありがとうございます」
「流れからして、あれ一本で良かったんちゃうか」
「そうですか。でもせっかくこういう舞台なんで新作やってみたかっんです」
「そうか。それはええことや。新作もおもろかったけどな、流れやな」
「ありがとうございます」
師匠が着替え始める。
着替え終わるとイスに座り、じっとネタ帳を睨んでいる。
出囃子が聞こえてくる。
一斉に「ご苦労様です」
「ほないってくるわ。青木先生でええねんな」
高座に上がる。
僕は走って客席の一番後ろへ向かう。
高座の師匠を見て思わず
「あっ、鶴瓶だ」と。
笑う。
悔しいけど笑う。
満場の拍手に見送られ師匠が手を振り高座を下りる。
蓮二さんの写真が流される。
リハーサルと違う景色に見える。
何だか苦しいぐらいに。