昨日は、浅草演芸ホールという寄席へ行ってみる。
瀧川鯉八という新作落語というものを生業にしている男が出ていた。
吸い込まれる。
興味を持ち、思い切って楽屋に行き、声を掛けてみると「お茶でもどうですか」と言われ喫茶店へ。
着物から洋服に着替えた彼はまるで違う印象だ。
まず背が10㎝程伸びている。
右腕が太い。
彼曰く扇子を右手で使う為とのこと。
落語家あるあるなのか。
僕はコーヒー、彼はナポリタン大盛り。
店員さんに「取り皿は要りますか?」と言われる。
2メートル級のおじさん二人が、ナポリタンを分け合う姿を想像し、モジモジが止まらない。
彼は古典落語に対する愛を、まるで落語のように右や左を向いて話す。
落語家とは普段からこのよう話し方をするのかと驚いた。
ただ途中から、右が誰で左が誰なのかが分からなくなり、話の内容にも飽きたので、
「君の古典落語に対する愛はまるで乙女のようだね」と話を遮った。
すると彼は「そうなんです。僕は乙女なんです」と、今度はいかに自分が乙女であるかを語り出した。
手ぬぐいをハートの形にしたり、扇子を仔犬に見立てたりと。
僕は軽い眩暈を覚えた。
印象に残った話を一つ。
彼は女の子と話をすると、すぐに姉妹のようになるらしい。
先日も初めて話をした女の子と、すぐに姉妹になり、恋愛トークで盛り上がり、最後に二人で泣いて肩を叩きあったという。
俄かには信じ難いが、彼がミニチョコパフェを追加したことでそれが確信に変わった。
「本当に乙女なんだね」と僕が言うと、彼は深々と頭を下げた。
まるで高座の後のように。
そこで僕ははたと気づく。
そうか、この二時間程の話は彼の落語だったのか。
思わず天井を見上げる。
この興奮を忘れない為に、彼がホットケーキを注文している隙をつき、そっと店を出る。
ご馳走さま。